会議で聞き返されることが増えた、夕方になると声がかすれる、高い声が出にくい。こうした変化があるとき、ボイトレを始める価値があるかどうかは、次の3点で判断できます。①耳鼻咽喉科での確認が必要な状態か、②公表データで効果が示されているか、③自宅練習で足りるか、レッスンが必要か。本稿では、今回確認できた3つの資料に基づいて、この3点に答えます。
確認した資料は次の3つです。どちらのWebページも有料レッスンを提供する事業者の発信であり、一次文献そのものではありません。以下は、その記載を読んだうえでの整理です。
- 東京ボイストレーニングスクール「50代・60代からのボイトレ」(50代・60代からのボイトレ|声のかすれ・滑舌・高い声の悩みに|東京ボイストレーニングスクール、最終更新2026年10月15日)
- 桜田ヒロキヴォーカルスタジオ「加齢の声への影響とボイストレーニングについて論文を調べてみた 第2話」(加齢の声への影響とボイストレーニングについて論文を調べてみた 第2話 - 桜田ヒロキヴォーカルスタジオ、2025年12月10日)
- 上記2ページが引く論文・記事(書誌情報は後述のとおり一部のみ確認)
結論:何がわかり、何がわからないか
資料から言えるのは、加齢による声の変化(声帯の粘膜や筋肉の変化、声の張りの低下)は一般に起こりうるものであり、発声の使い方やトレーニングで「改善の可能性がある」という点までです。一方、資料には音域、声量、かすれの程度を測った数値がなく、ビフォーアフターとして示せるデータは今回の資料にはありません。
したがって、次のように整理します。
- かすれ・喉の痛みが続く場合は、まず耳鼻咽喉科で確認する(両サイトとも同じ注意を明記)
- 治療中の方は、医師に相談してから発声練習を始める
- 自宅練習(音読、ストロー発声)から始め、録音で変化を確認する
- レッスンは、自分で声の状態を評価しにくい場合の補助として検討する
資料の根拠の強さ:一覧
| 資料・研究 | 資料が示していること | 確認できた制約 | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 大阪大学の耳鼻咽喉科医の解説(細川清人「最近声がだんだんと細くなって,張りのある声を出したいのですが,いい方法はありますか?」JOHNS 39巻9号、2023) | 年齢とともに声帯の粘膜や筋肉が変化し、声の張りが失われることを解説している(スクールページの記載) | 原文は未確認。スクールページの記述では所属と論文の著者の関係が十分に示されていない | 加齢変化の説明に限定して使う |
| JSLHR 66(8)(2023)“A 4-Week Straw Phonation in Water Exercise Program for Aging-Related Vocal Fold Atrophy” | 加齢による声帯萎縮がある60歳以上の人が、水中でのストロー発声を4週間続けた結果、かすれや疲れやすさが改善したとされる(スクールページの紹介) | 対象人数、効果量は資料に示されていない。水中で行う方法であり、家庭の普通のストローで同じ効果が出るとは書かれていない | 「試す価値がある方法」の根拠として使い、効果の大きさは断定しない |
| Brown ら(2019):軽い有酸素運動とPTP(発声開始に必要な最小声門下圧) | 有酸素運動後にPTPが下がり、血中酸素飽和度が上がると、ブログが紹介 | ブログには書誌情報がなく、原典は未確認。効果の大きさも示されていない | 「発声前に少し歩く」という低リスクの試行の根拠として扱う |
| Sundberg ら(2010):長年歌い続けた職業歌手の声源パラメータ分析 | 加齢による変化が小さい傾向が報告された、とブログが紹介 | ブログには書誌情報がない。継続が声を保護したのか、続けられた人を観察しただけなのかは区別できない | 「継続が良い可能性」の示唆にとどめる。因果としては使わない |
| 桜田スタジオの臨床的観察 | 50代・60代・70代の方が音域拡大、声量改善、持久力向上を示す例が「数多く見られる」 | 件数、割合、測定方法が示されていない | 参考程度。効果の証拠とはみなさない |
喉で起きている変化:資料が説明していること
東京ボイストレーニングスクールのページは、声を「喉の奥の声帯」「それを動かす筋肉」「息を送り出す呼吸の力」でつくられるものと説明し、年齢を重ねると筋肉がやせたり、会話や歌う機会が減ったりして、かすれ・細さ・響きの低下が起こりやすくなると述べています。桜田スタジオのブログは、こうした変化を声帯粘膜の物性変化、声帯筋の反応性低下、神経伝達速度の変化などで説明しています。
男女差について、スクールページは「一般に」「傾向があるといわれている」という表現にとどめています。断定はされていません。
編集者の見立て(資料による裏付けなし):呼吸を支える力が落ちていれば、喉だけを練習しても声は戻りにくいと考えられます。ただし、これは資料が直接示した内容ではありません。
判断基準1:まず耳鼻咽喉科に行くべきか
両サイトとも、かすれや喉の痛みが長く続く場合は耳鼻咽喉科を受診するよう書いています。スクールページは「病気が原因のこともある」とも明記しています。ボイトレは、病気の診断や治療の代わりにはなりません。
「長く続く」の基準は資料に示されていません。編集部の提案としては、次のいずれかに当てはまれば受診を優先してください(資料による裏付けはありません)。
- 数週間たっても声の状態が戻らない
- 痛み、息苦しさ、血の混じった痰がある
- 治療中の病気や服薬がある
判断基準2:自宅練習かレッスンか
スクールページによると、レッスンは1コマ30分のマンツーマンで、月2回9,500円(税込)からです。体験レッスン(30分)は無料で、入会金15,000円は「キャンペーン中」として0円と書かれています。キャンペーン終了後の条件は、資料では確認できませんでした。また、校舎は「6校舎とオンライン」と書かれていますが、本文で列挙されているのは池袋・新宿・渋谷・秋葉原の4校舎とオンラインです。2校舎の所在は、資料からは確認できません。
| 比較項目 | 自宅練習(音読・ストロー発声・発声前の歩行) | 体験レッスン・マンツーマンレッスン |
|---|---|---|
| 費用 | 資料に記載なし(器具の費用は別途) | 体験30分は無料。月2回9,500円(税込)から。入会金はキャンペーン表記 |
| 時間 | 資料に記載なし | 1コマ30分。予約制 |
| 強み | 毎日続けやすい。費用がかからない | 今の声の状態を、講師が聞いて確認してくれる(スクールページ) |
| 注意点 | 研究の条件(水中、4週間など)を再現できるとは限らない。自分で正しい状態を判断しにくい | 料金の対象範囲(指名料・教材費は月謝に含まれる)は確認済み。キャンペーン後の料金は要確認 |
編集者の判断:まず体験レッスンで現状の評価を受け、その後の自宅練習の内容を講師に確認する、という順序が合理的です。体験後に自宅練習だけで続けられるかを判断してください。これは編集部の提案であり、資料の裏付けはありません。
判断基準3:発声前の準備として何を試すか
ブログは、著者が約25分のやや早歩きで通い、スタジオに着くまでに身体を起こしていると書いています。また、歩行中にストロー発声(SOVT)をすると声の立ち上がりが整いやすいという著者の実感を紹介しています。ただし、これは著者の主観的な体験で、測定値はありません。ブログ内の「汎用性の高い準備の流れ」には「軽いジョギングまたはHIIT」が挙げられていますが、50代が取り入れる際の強度や注意点は資料に書かれていません。持病がある場合は、事前に医師に相談してください。
チェックリスト:始める前と、始めてからの確認
以下は、資料をもとに編集部が作成したチェックリストです。○が多く付くほど、自宅練習から始めても差し支えない状態と判断できます。
- □ かすれ・喉の痛みが数週間以上続いていない
- □ 痛み、息苦しさ、血の混じった痰がない
- □ 治療中の病気や服薬がある場合、医師に相談済み
- □ 練習は「痛みを感じない範囲」で行う(スクールページは無理な発声をしないと明記)
- □ 練習前に数分の歩行や軽い準備運動をする(著者の実践例。効果は主観)
- □ 音読や録音を、週1回、同じ条件(同じ場所、同じ文章、同じ時間帯)で行う
- □ 録音を2週間以上保存し、聞き比べができるようにする
- □ 体験レッスンを受ける場合、事前に「どの声の状態を見てほしいか」をメモしておく
- □ 料金は、キャンペーン終了後の金額と解約条件を確認してから契約する
自分の声を比べる方法(編集部の提案)
資料には測定方法がないため、次の手順を提案します。これは資料に基づく方法ではなく、編集部の提案です。
- 同じ日の同じ時間(例:朝起きてすぐ、または夕方の会議後)に、同じ文章(新聞の一段落など)を読んで録音する
- 週1回、同じ条件で録音し、3〜4週間分をまとめて聞き比べる
- 「かすれの程度」「途中で息が続かなくなる箇所」「声の高さの出しやすさ」を、5段階などで自分で記録する
- 家族や同僚に、聞き取りやすさを一言で評価してもらう(任意)
資料に書かれていない・確認できていないこと
- 音域、声量、かすれの程度を測定した数値
- ブログが引くBrown(2019)、Sundberg(2010)の原典と、効果量・対象人数
- JSLHR 66(8)(2023)の対象人数と効果量
- キャンペーン終了後の入会金、月謝の条件
- 「6校舎」のうち、列挙されていない2校舎
- 整体や身体づくりとの関係(今回の資料には含まれていない)
今日からできることは、朝に1週間分の録音を始め、耳鼻咽喉科の受診が必要かどうかを上のチェックリストで確認することです。録音で変化が見えない、またはかすれが続く場合は、耳鼻咽喉科で状態を確認してから、レッスンを検討してください。
参考文献・出典
- 東京ボイストレーニングスクール「50代・60代からのボイトレ|声のかすれ・滑舌・高い声の悩みに」(50代・60代からのボイトレ|声のかすれ・滑舌・高い声の悩みに|東京ボイストレーニングスクール)
- 桜田ヒロキヴォーカルスタジオ「加齢の声への影響とボイストレーニングについて論文を調べてみた 第2話」(加齢の声への影響とボイストレーニングについて論文を調べてみた 第2話 - 桜田ヒロキヴォーカルスタジオ)
- 細川清人「最近声がだんだんと細くなって,張りのある声を出したいのですが,いい方法はありますか?」JOHNS 39巻9号(2023)※原文未確認
- A 4-Week Straw Phonation in Water Exercise Program for Aging-Related Vocal Fold Atrophy. Journal of Speech, Language, and Hearing Research 66(8)(2023)※原文未確認
- Brown ら(2019)、Sundberg ら(2010):ブログ経由で確認。書誌情報は未確認
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