3杯目を飲み終えたとき、ようやく気づいた。この資料、誰も読まへんやろ。
「RAGを使えば回答精度が向上します」「Azure AI Searchで既存システムと統合できます」——自分で書いた文章を読み返して、正直、引いた。
技術語りで決裁率が下がる
技術が分かれば提案は通る。ずっとそう信じてた。
でも実際は逆やった。技術の話をすればするほど、決裁者の顔が曇る。
製造業のクライアントに提案したとき、AIによる問い合わせ自動化の仕組みを30分かけて丁寧に説明した。LLMの推論フロー、RAGのインデックス構造、精度の数値まで。「どうですか?」と聞いたら、「すごいのは分かるんですけど、結局何がすごいんですか?」と言われた。笑えない。
私が関わった2025年度の案件を振り返ると、技術の複雑さを説明しすぎた提案書ほど、役員層の理解度が下がり、見送りになりやすいという傾向が出た(断言できるほどのサンプル数はないが、感覚と完全に一致してる)。
PoC(概念実証)を何度繰り返しても、半年経っても本番運用に至らない。「検証屋さん」というレッテルを貼られたエンジニアを何人か見てきた。これは技術力の問題やない。売り方の問題や。
技術への理解が深いほど成約しやすい、なんてのは通説であって真実やない。AIの仕組みを説明する時間を削って、顧客の現在の業務フロー図を説明に使う方が、受注率はずっと高い。
ROI月間150万円の正体
答えはシンプルで、金の話だけをするということや。
問い合わせ対応業務の例で言うと、月間120時間の対応作業があって、人件費換算で1時間3,000円なら月36万円のコスト。これを自動化で75%削減できたら月27万円の改善。採用コストの抑制や、品質ムラ解消による再問い合わせ率の低下を乗せていくと、月間150万円規模のROIが算出できる。
LangChainだのPineconeだのは、あくまで手段の話。決裁者に伝えるべきは「この技術がすごい」ではなく「この業務のムダが消える」や。
AIの精度向上を訴求した案件より、既存業務との連携コスト削減を訴求した案件の方が、予算承認の確度が高いという傾向も肌感としてある。技術的な洗練さは関係ない。何を「すごい」と感じてもらうかが全てや。
余談やけど、先日コンビニで昼飯を買いながら、レジ横の自動発注システムをぼーっと見てた。あれも誰かが「在庫ロスを月○万円削減します」という一言で売り込んだはずで、技術の話なんて一秒もしてへんやろうな、と思った。
3スライドで決裁が通る
以前の私は、提案書を10ページ以上書いてた。アーキテクチャ図、技術比較表、導入スケジュール、想定FAQ……丁寧に作れば作るほど良くなると思ってた。
今は3スライドしか作らない。
構成はこうや。
1枚目:「現在の業務フローと、そこに眠ってるコスト」
2枚目:「3ヶ月以内に達成する具体的なKPI(数字だけ)」
3枚目:「着手コストとスケジュール(部長決裁で動ける範囲)」
技術的な詳細図は入れない。「なぜこの技術を選んだか」の説明もしない。そういう話は、決裁後のキックオフでやればいい。
このフォーマットにしてから、稟議が通るまでの期間が平均60日から21日に縮まった(私が関わった数件の平均なので統計としては弱いが)。決裁者が「読める」資料というのは、短い資料のことやと気づいた。
結局、業務のデバッグやった
AI実装の本質は、業務フローのおかしい部分を治すことや。
技術者として考えると「いかに高精度なモデルを構築するか」という問いに引っ張られる。でもクライアントにとっては、業務フローのどこかが壊れてて、そこを直してほしいだけや。業務フロー図を提案の主軸に据えるようにしてから、「技術的なことは分からないけど、これなら検討できる」という反応が明らかに増えた。
だからPoCは6週間で区切る。長すぎると「まだ検証中」が続き、成果が見えないまま評価フェーズに入れない。6週間で一つ結果を出す約束をする方が、クライアントの信頼は取りやすい。
総予算は200万円以下に設定する。部長決裁で動ける金額のラインに近いからや。役員会にかけなくて済めば、意思決定のスピードが全然違う。
難しい技術を売る、というより業務のゴミを捨てさせる提案をする。その感覚に変わってから、提案の通り方が変わった。今のところ、それが一番正直なところや。
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