
鴨川の早朝、冷たい空気が肺の奥まで染み渡る。水面はまだ薄暗く、街灯の光を反射して、まるで磨かれた鏡のように輝いている。
鴨川の朝、鉛の足取りと微かな諦念
毎朝、この鴨川べりを走るのが僕の日課だ。清々しいはずの景色なのに、ここ数ヶ月、足取りはいつも鉛のように重かった。目覚ましが鳴る前から意識はぼんやりと覚醒しているのに、布団から抜け出すのは億劫で、いつもギリギリまで粘ってしまう。身体のどこかに疲労の膜が張り付いているような、そんな感覚が拭えなかった。
「このままでは、サブ3なんて夢のまた夢だ」
心の中で呟くたび、小さな焦燥感が胸を締め付ける。練習量は増やしているつもりだし、食事にも気を使っているつもりだ。けれど、結果は一向についてこない。その原因が何なのか、漠然とした不調の正体が掴めず、僕はどこか諦めにも似た感情を抱え始めていたのかもしれない。毎晩の晩酌が、いつの間にか日常に溶け込んでいたことも、その一因だったのだろうか。
グラスを置く夜、静かなる決意の始まり
そんな停滞感の中、ふとしたきっかけで「睡眠とリカバリー」という言葉が僕の意識に引っかかった。ランニング仲間が口にした「最近、睡眠を測る小さな機械を使い始めたら、身体の調子が全然違う」という話や、雑誌で目にした記事が、妙に頭に残っていたのだ。
正直なところ、僕はこれまで「寝付きが良いから、睡眠は問題ない」と高を括っていた。グラスを傾ければ、すぐに深い眠りに落ちる。それが、僕にとっての「良い睡眠」だった。しかし、ある晩、いつものように酒を飲みながら、ふと自分の生活を俯瞰してみたとき、この習慣が本当に僕の身体を休ませているのか、という疑問が湧き上がった。
藁にもすがる思いで、僕も例の「睡眠を測る小さな機械」を身につけることにした。そして、その夜から、僕はグラスを置いた。禁酒初日は、手持ち無沙汰で、口寂しさが募った。けれど、翌朝の目覚めを想像すると、数値への期待と、それが裏切られるかもしれない不安が入り混じり、妙な緊張感に包まれた。
数字が囁く真実、身体が覚える快感
禁酒を始めてから、たった1週間。信じられないことが起こった。
毎朝確認する「睡眠を測る小さな機械」のスコアが、劇的に改善していたのだ。これまでは60点台をウロウロしていたものが、ある日突然、85点を超えていた。最初は、機械の故障か、あるいは偶然だろうと、少し斜に構えていた僕だが、その変化は数字だけではなかった。
目覚ましが鳴る数分前には、すでに意識がはっきりと覚醒している。布団から跳ね起きると、身体は軽く、疲労感はどこにも見当たらない。まるで、一晩で身体が生まれ変わったような感覚だった。
そして、鴨川でのランニング。足取りは驚くほど軽やかで、心肺機能も以前とは比べ物にならないほど回復しているように感じられた。これまでなら、後半でバテていた距離も、最後まで軽快に駆け抜けられる。筋肉の修復が進んでいる感覚が、身体の奥底から湧き上がってくる。これこそが、本当のリカバリーだったのだと、僕は驚きと歓喜に包まれた。
新生の足音、未来へと続く鴨川の道
禁酒という選択が、僕のランニング、いや、僕自身の生活にこれほど劇的な変化をもたらすとは、想像だにしなかった。鴨川を走る今の僕は、以前の停滞した姿とは全く違う。一歩一歩が力強く、リズムに乗って軽やかに進む。清々しい朝の光が、僕の行く道を照らしているかのようだ。
「これこそが、本当のリカバリーだったのだ」と、改めて確信が深まる。
サブ3という目標は、もはや遠い夢ではない。はっきりと、手の届く場所に見えてきた。禁酒によって得られたこの新しい身体、そして心は、僕が人生の転換期において、家族の歩みを支え、未来へと技術をつなぐための基盤を再構築する、確かな一歩なのかもしれない。
鴨川の道は、どこまでも続いている。僕の新しい挑戦も、ここから始まったばかりだ。
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