「先週やると決めたんだから、今日やらないと意味がない」——そう思って、クローゼットから道具を全部引っ張り出した。リビングの床がみるみる埋まっていった。
道具には匂いがある
テントの袋を開けた瞬間、土の匂いがした。
去年の秋、北アルプスの稜線だ。風が強くてペグが刺さらなくて、岩で固定したやつ。ヘリテイジのクロスオーバードーム、1,080グラム。この匂いを嗅ぐだけで、あのときの空気が戻ってくる。
シュラフを広げると羽毛の温かみが手に伝わった。イスカのエア 450X。530グラム。「これがあれば秋の縦走もいける」と信じてきたし、実際いけた。だから、10年経っても手放せない。
道具を一個ずつ並べながら、そういうことを考えていたら2時間が経っていた。これは単なる棚卸しではなく、自分の山行の歴史を手で触る作業だった。
数字にしたら絶句した
スプレッドシートに打ち込んでいった。品目・重量・購入価格・選定理由。
32点。
総重量を合計したら12.4キロだった。体重65キロの私が推奨される限界は9.75キロだから、2.6キロオーバーしている。「膝が笑う」のは当然だ、と思った。
総額を出すのが怖くて、しばらく止まった。なんとなく50万は超えているだろうな、と感じていた。電卓を叩いたら54万円だった。「なんとなく」が正確だったのが余計に重かった。
ちなみに今日の夕方、スーパーで豚の塊肉が半額になっているのを見て、ついつい買ってきてしまった。全然関係ない話だけど、あの衝動買いと道具の買い方がどこか似ている気がして、少し笑えた。
重い理由は全部ある
3大重量品だけで全体の30%を占めていることに気がついた。
オスプレー イーサープラス 65が2,150グラム。テントが1,080グラム。シュラフが530グラム。この3点だけで3,760グラムになる。
でも、これを「無駄」とは言えない。
ザックは腰への荷重分散が他と段違いだった。テントは冬季縦走にも耐えるスペック。シュラフは信頼できる保温性。一点一点、正解を選んできたつもりだった。それが積み重なって12.4キロになっていた。
余談だが、今回いちばんショックだったのは雨具だった。4万円払ったゴアテックスのやつが480グラムで、2万円台のモンベル トレントフライヤー(270グラム)より重かった。値段と軽さは比例しない、とは聞いていたが、自分のリストで見せられるとまるで別の話だ。
道具より先に変えること
5年前は14.8キロだったから、確かに2.4キロは減った。でも一点あたりの平均単価は8,400円から16,900円になっている。お金は正直に使ってきた。そう思うことにする。
ただ、このリストを眺めながら気がついたことがある。
1キロ軽くするより、出発を1時間早めるほうが身体への負荷軽減効果が大きい——そんなデータを山岳ガイドの研究で読んだことがある。55歳以降の身体には、道具の重さより行動時間の長さのほうがこたえる、という話だ。
知ったとき、少し肩の力が抜けた。装備を全部替えなくても、行動の仕方を変えればいい。
このスプレッドシートが完成したら、若い人にも、同世代の山好きにも、見せられるものになると思っている。「なぜこれを選んだか」「この年齢ではここに注意すべきか」を書き添えれば、ただの買い物リストじゃなくなる。3年後、これが誰かの山行を変えるかもしれない——そういう想像をしながら、セルを埋めていった。
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みなさんも、自分の道具を一度全部書き出してみたことはありますか?「意外に持ちすぎていた」「あれ、これなんで買ったっけ」——そういう発見が、きっとあると思いますよ。
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