夕暮れのキッチンで、洗い物をしながらふと手が止まる。シンクの向こうに見える空は、今日一日の終わりを告げるように、じんわりとオレンジ色に染まっていた。こんな時間になると、なんだか色々なことが頭の中をぐるぐるする。

「私、これでいいのかな」

ふと、そんな声が心の奥から聞こえてくる。47歳。パート勤め。別居中の夫との関係も宙ぶらりんのまま。娘も大きくなってきて、これからのことを考えると、胸のあたりがキュッと締め付けられるような不安が押し寄せる日がある。周りの友達はみんな、それぞれの場所でしっかり根を張っているように見えて、私だけが取り残されているような、そんな寂しさを感じることも。

新しいこと、何か始めたい気持ちは確かにある。でも、「今更」って言葉が、いつも私の足元にまとわりつくの。年齢の壁、経験のなさ、世間の目。色々なものが重なって、一歩踏み出す勇気がポロポロと崩れ落ちそうになる。でもね、そんな心が折れそうな日があっても、いいんだよね。私だけじゃないって、そう思いたい。

# 「今更」の声と、それでも手を伸ばした一枚の求人情報

ある日、パートの休憩中にスマホで求人情報を見ていた時のこと。いつものように事務職の募集を眺めていたんだけど、どうしても目に入ってくるのは「30代まで」とか「経験者優遇」の文字ばかり。

「あー、やっぱりね…」

ため息がひとつ、こぼれた。40代の未経験事務職なんて、もう無理なのかな。まるで、人気の特売品に群がる人たちの後ろから、背伸びして覗いているような気持ちになるの。どうしたって手が届かない、そんな感覚。

でも、そんな中に、ふと目に留まった言葉があった。「人柄重視」「長く働いてくれる方歓迎」。あれ?って、ちょっとだけ心がざわついた。昔、友達の恵子さんが「会社によっては、若い子より落ち着いた人がいいってところもあるみたいよ」って話してたのを思い出したの。すぐに結果が出なくても、焦らずに、誠実に向き合ってくれる人を探している会社もあるんだって。

その時、思い切って「株式会社キャリアアップ」というところのオンラインセミナーに申し込んでみたの。月額3,000円。正直、この出費もドキドキだったけど、未来への貯金だと思って。初めてのオンラインセミナーは、キャリアアドバイザーの山田さんという方が担当してくれたんだけど、私の話にじっくり耳を傾けてくれて。

「佐藤さんのように、これまで色々な経験をしてきた方は、それがそのまま強みになりますよ。大切なのは、それをどう伝えるかです」

山田さんの言葉が、じんわりと心に染み渡った。まるで、冷えた体に温かいココアが巡るみたいに、心がホッと温かくなったの。この時、「よし、やってみよう」って、小さな火が私の胸に灯った気がした。

# 15時間の格闘。履歴書は、私自身の物語だった

山田さんから最初に渡されたのが、「キャリアの棚卸しシート」というもの。これがもう、大変で! 自分のこれまでの人生を、まるで古いアルバムを一枚一枚めくるみたいに、じっくり見つめ直す作業だった。家事、子育て、パート先での細やかな気配り。当たり前だと思っていたことが、実は誰かの役に立っていたこと。

「娘が友達と喧嘩した時、両方の言い分を聞いて、どうすればみんなが納得できるか一緒に考えたな…」
「パート先の書類整理、もっと効率よくできないかなって、自分なりに工夫して、みんなが使いやすくなったって喜んでくれたっけ…」

そんな一つ一つの経験が、「コミュニケーション能力」とか「タスク管理」っていう、立派なスキルに繋がるって教えてもらって、もう目からウロコだったの! まさに、バラバラだったパズルが、カチッと音を立てて繋がっていくみたい。このシートを埋めるのに、気がつけば15時間も費やしてた

そして、いよいよ履歴書と職務経歴書の作成。これがまた、手が止まる、止まる。どう表現したらいいんだろう、この気持ち。でも、山田さんとの模擬面接を3回重ねるうちに、少しずつ自分の言葉で語れる手応えを感じるようになってきたの。まるで、曇っていた窓ガラスが、少しずつ晴れていくみたいに。

ある日、株式会社ミライワークスの求人票を前に、私は改めて自分の「物語」を語り直すように、履歴書を仕上げていった。これまで歩んできた道が、これからの私に繋がっている。そんな確かな自信が、じんわりと湧いてきた。

# ポストに吸い込まれた一枚の封筒。怖さより、期待。

完成した履歴書と職務経歴書を前に、私は深呼吸をひとつ。
「これで、本当にいいのかな…」
最後の最後まで、不安が顔を出す。でも、もう後には引けない。

封筒を手に、近所のポストへ向かった。いつも通る道なのに、その日はなんだか、足取りがフワフワしているような、地に足がついていないような変な感覚。心臓がトクトクって、いつもより早く脈打っているのがわかる。

ポストの前に立つと、指先が少し震えた。ゆっくりと、でも迷わないように、封筒を差し込む。スッと、音がして、吸い込まれていく。その瞬間、フッと肩の力が抜けるような、深い息が漏れた。

「あー、出しちゃった…」

なんだか、変な感じ。怖さが確かにそこにあったのに、それよりも、胸いっぱいに「期待」が広がっていることに気づいたの。まるで、新しい扉をひとつ開けたみたいな、清々しい気持ち。

そういえば、この前、娘が初めて自分で作ったキャンプ飯を「お店みたい!」って褒めてくれたんだっけ。あの時の嬉しさと、ちょっと似てるかもしれない。

この一歩が、私の人生の後半戦の、新しい物語の始まりになる。そう信じて、私は空を見上げた。夕焼けはもう消えて、夜の帳が降り始めていたけれど、心の中には、確かな光が灯っていた。🌸✨