承継は家族への長期投資
承継というものを、単なる「相続」という事務的な手続きとして捉えるのはもったいない。これは、家族の未来、ひいては築き上げてきた資産を次世代に繋ぐ「長期投資」そのものだ。
投資の世界では、リスク管理と計画が何よりも重要になる。それは家族関係という無形資産においても同じで、生前のコミュニケーション不足が原因で遺産分割協議が長期化するケースが、家庭裁判所のデータによると約75%にも上るという事実は、まさに情報開示不足によるリスク顕在化の典型例だろう。
事業承継となればさらに複雑だ。後継者育成には5年以上かかるケースが40%を占めるというデータもある。これは、事業の持続可能性への投資が、いかに早期着手を必要とするかを示している。
感情を排した家族会議
私は先日、妻と子供たちに少しだけ時間をもらい、家族会議を開いてみた。最初は皆戸惑っていたが、感情論ではなく、具体的な数字や将来の選択肢を提示することで、少しは現実味を帯びたようだ。
この手の会議は長引かせると疲弊するだけだ。私の経験上、90分以内に集中して終わらせるのが理想的だと考えている。議題は大きく二つ。一つは現在の資産状況の共有。もう一つは将来の希望、つまり「誰が何をしたいか」をざっくりとでも良いから明確にすることだ。
これは、銭湯の脱衣所のロッカーの鍵を誰が持つか、という話ではない。ロッカーの中身(資産)をどう分配し、それぞれがどう運用していくのか、そのための戦略を話し合う場なのだ。
プロの知見をコスパ良く活用
「専門家は高額だから後回しで良い」という意見もよく聞くが、これは大きな誤解だ。初期段階での「方向性確認」であれば、費用をかけずにプロの意見を聞く方法はいくらでもある。例えば、東京都内の税理士事務所の約30%が初回無料相談を提供している。
まずは、相続や事業承継に強い税理士事務所にアポイントを取るのが最善策だろう。税理士は税務、弁護士は法律問題、司法書士は不動産登記といった具合に専門分野が異なるが、まずは全体像を把握するために税務のプロに相談するのが効率的だ。
目標としては、2週間以内に初回面談を設定したい。中小企業の事業承継が完了している企業の約60%は、承継開始から1年以内に専門家への相談を開始しているという日本経済新聞の調査結果は、早期相談の費用対効果を裏付けている。
家族信託の導入を検討する場合、信託報酬は年間0.3%から1.0%程度かかる。一見高く感じるかもしれないが、特定のケースでは家族信託を活用することで、相続税評価額を最大15%削減できた事例も信託銀行の報告書で確認されている。このあたりの費用対効果は、専門家に具体的なシミュレーションを依頼する価値は十分にある。
余談だが、先日、会社の顧問税理士と話していた時、彼が「最近、若い経営者からの承継相談が増えている」と言っていた。彼らも早めに手を打つことの重要性を理解しているのだろう。
未来の不安を計画に変える
承継は「いつか」ではなく「今」始めるべき、という結論は揺るぎない。漠然とした不安を抱え続けるよりも、具体的な計画を立て、一歩ずつ実行していく方が、はるかに精神衛生上も、そして資産形成上も健全だ。
まずは家族会議を設定し、次に専門家へのアポイントを取る。この二つの具体的な行動が、未来の不安を「計画」へと変える第一歩になる。
もちろん、最終的な投資判断は自己責任だ。しかし、家族の未来という最も確実な資産への投資を怠る手はないだろう。銭は働かせてこそ価値がある。それは家族の未来も同じだ。