
北新地の路地裏、雑居ビルの2階。看板なし、ドアベルを押さないと入れない全8席のカウンター鉄板焼き。Instagramで見つけて、2ヶ月前に電話を入れて、それでもギリギリ確保できた店だ。
予約するとき「子供を連れていいですか」と聞くのに一瞬ためらった。その話から書く。
8席という数字が持つ力
コロナ以降、大阪市内の「席数10席以下」のカウンター鉄板焼きが増えた。2020年比でざっと4割増だ。
経営者の目線で見ると、8席という制約は弱点じゃない。1日2回転、最大16人分の売上で成立させる構造。高い単価と完全予約制で需要を読み切る。農業で例えるなら、大量栽培じゃなく契約農家が自分の畑だけを丹念に育てるやり方に近い。
コースは1人15,000円(税・サ別)から。子供は半額の7,500円で対応してくれた。4人合計で6万円超。私にとってこれが「高い」かどうかは、何を買っているかによって変わる。
子連れは邪魔か、という話
電話で予約を取るとき、正直ためらった。
過去に似たような高級店で、子供が落ち着かなくて周囲に白い目で見られた記憶がある。あのときは雰囲気を壊した感じがして、食事の半ばで早めに切り上げた。あの苦い経験があるから、値の張る店には必ず事前確認を入れるようにしている。
今回の返答は「ぜひどうぞ」だった。8席のカウンターは、物理的に周囲に迷惑をかけにくい。大箱のフレンチとは違って、全員がひとつの食卓を囲むような距離感がある。シェフが子供に直接語りかけてくれるし、むしろその距離感が子連れには合っている。
データでも傾向は出ている。都市部の高級鉄板焼きの4割超が、何らかの子連れ配慮メニューを設けているらしい。「隠れ家系は子連れNG」という先入観はもう時代遅れだ。
炎が上がった瞬間
食事の話をしよう。
目の前60センチに鉄板がある。食材が乗るたびに香りが変わる。神戸牛A5ランクのサーロインが鉄板に置かれた瞬間、小さな炎が立ち上がった。子供が思わず「うわっ」と声を上げた。
子供は飽きなかった。 これは本当だった。
「子供は高級店で90分も座っていられない」という話をよく聞くけど、目の前で食材が変化し続けるライブ感は子供の集中力を別のモードに切り替える。うちの子は席を立とうとしなかった。同価格帯のフレンチやイタリアンと比べて、シェフとの会話時間が体感で3倍くらい長かった。体験型の外食としての満足度は、数字じゃ測れないところがある。
玉ねぎが主役になった日
余談だけど、帰り道に子供が「また食べたい」と言ったのは神戸牛ではなかった。
淡路島産の新玉ねぎのソテー、追加380円。これだ。甘くて、柔らかくて、鉄板の熱で水分が凝縮されたあの一枚が「一番おいしかった」と言い張った。
380円の玉ねぎが、15,000円のコースを食い物にした。子供の味覚は正直だし、ある意味ちゃんとした鑑定眼だと思う。素材と調理の掛け合わせが上手くいくと、脇役が主役に化けることがある。投資でも同じことが起きる。大型銘柄を軸にしながら、脇に置いた小型の1枚が最大のリターンをもたらす局面がある。どこで輝くかを事前に読み切れないのが分散のおもしろさだ。
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来年も予約を入れようと思っている。次は子供の誕生日に合わせて。少人数制の体験型外食という業態は、まだ伸びしろがある。「食事」と「体験」を切り分けずに売る店が増えていく流れは、引き続き注目していきたい。
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