鏡の中の「私」は、もう誰だか分からなかった
夫との会話も、最近は子供の進路や夕飯の献立ばかり。別に不仲なわけではないのですが、若い頃に夢見たようなトキメキや、女としての高揚感なんて、とっくに失せてしまっていました。このまま、ただ日々が過ぎていくのだろうか。鏡の中の「女」は、どこに行ってしまったのだろう、と漠然とした不安を抱える毎日でした。
SNSに流れてきた、一枚の「誘い」
そんなある日、スマホを眺めていると、一枚の写真が目に飛び込んできました。プロのカメラマンが撮ったらしい、見違えるほど美しく、自信に満ちた女性のポートレートでした。最初は「私には関係ない世界の話だわ」と画面をスワイプしようとしたのですが、なぜか指が止まってしまったのです。
その写真には、「スタジオ・レインボー」という名前と、フォトグラファーの桜井梓さんの名前が添えられていました。「もう一度、自分を見てみたい」という、心の奥底に押し込めていた衝動が、ふつふつと湧き上がってくるのを感じました。誰のためでもなく、ただ私自身のために。
スタジオの魔法と、私の中に眠っていた「見知らぬ女」
思い切って予約した「スタジオ・レインボー」は、白を基調とした、光が柔らかく差し込む素敵な空間でした。メイクルームに案内されると、優しい笑顔のメイクアップアーティストさんが迎えてくれました。普段の時短メイクとは全く違う、時間をかけた丁寧なメイクアップ。少しずつ、顔の印象が変わっていくのが鏡越しに分かります。
「中村さん、肩の力を抜いて、もう少し顎を引いてみましょうか」
カメラマンの桜井梓さんの指示は的確で、最初はぎこちなかった私の表情も、不思議と自然になっていきました。約3時間のセッションの中で、私は生まれて初めて、自分でも知らなかった「女性としての表情」をたくさん引き出してもらいました。照明の当て方、ポーズ、そして何より桜井さんの言葉の力で、私の内側に眠っていた「見知らぬ女」が、少しずつ目覚めていくような感覚でした。
余談ですが、この間、近所のスーパーでレジの列に並んでいたら、前にいた奥さんが「最近の野菜、高すぎて困るわよねぇ」って話しかけてきて。そんな他愛ない会話でさえ、なんだかホッとできる自分がいることに気づきました。私の日常は、こんなささやかな出来事の積み重ねなんだな、って。
この写真が教えてくれた、私の「生きたい」
数日後、出来上がった写真を見せてもらった時、私は言葉を失いました。そこに写っていたのは、紛れもなく私。でも、私が知っている「私」とは違う、自信に満ちて、まっすぐに前を見つめる「女」の顔でした。涙が滲んで、視界がぼやけてしまいました。
「ああ、私はまだ、女として生きていたいんだ」
その写真が、私の中にあった漠然とした不安や諦めを、一瞬で吹き飛ばしてくれたようでした。後で知ったのですが、写真がきっかけで自分の気持ちに気づく女性は少なくないそうです。中には、たった数枚の写真で、その後の行動が加速するという話も耳にしました。
写真を見てから、私の日常は少しずつ変わり始めました。まずは、ずっと気になっていた女性用ファッションブランド「フェミニン・クローゼット」のサイトを覗いて、何枚か服を試着してみたんです。鏡に映る自分を見て、心が躍りました。メイクアップレッスンも検討中で、1回15,000円くらいかかるそうですが、自分への投資だと思えば安いものだと感じています。
もちろん、夫や子供たちにどう思われるかという不安はあります。でも、自分が本当に生きたい姿を追求することは、きっと家族にとっても良い影響があるはずだと信じています。同じように、年齢や役割に縛られず自分らしさを求める女性たちが集まるオンラインコミュニティのような場所があることも知りました。私も何か、そういう場を探してみるべきなのかな、と考えています。
この「私」で、どこまで行けるだろう
一度きりの人生、このまま「誰かの妻」「誰かの母」だけで終わらせたくない。そう強く思えるようになったのは、あの写真との出会いがあったからだと感じています。もちろん、まだ全てが解決したわけではありませんし、これからどんな変化が待っているのか、正直不安がないわけではありません。
でも、一歩踏み出したことの重要性を、私は身をもって知ることができました。この新しい「私」で、どこまで行けるだろう。どんな景色が見られるだろう。そう考えると、毎日が少しだけ、色鮮やかに見え始めています。もしあなたが今、鏡の中の自分に問いかけているのなら、どうか諦めないでほしい。あなたの内側にも、きっとまだ見ぬ「あなた」が眠っているはずですから。