65dBでも認識率92%
iPhone標準の音声入力を、のぞみ号の車内(騒音レベルはおよそ65dB)で試したところ、認識精度は体感で約92%を維持した。1分間に書き取れる文字数は約300字。キーボードで同じ量を打とうとすると、私の場合は5分近くかかる。
東京−新大阪間はのぞみ号で2時間20分、距離にして約515km。この移動時間をまるごと口述筆記に充てれば、単純計算でも相当な文字量になる。実際の内訳は後述する。
走行音という「盾」
意外だったのは、静かな車内より騒がしい車内のほうが喋りやすいという逆説だ。新幹線の走行音はホワイトノイズに近く、自分の声を目立たなくしてくれる。
声量は普段の会話の半分以下、独り言レベルで十分認識される。むしろ図書館のように静かな空間でボソボソ喋るほうが、周囲の視線が気になって声が出ない。走行音が心理的な盾になっているわけだ。
AirPods Proの効き目
ノイズキャンセリングをオンにすると、車内アナウンスとの混線による誤認識が体感で3割ほど減る。研究対象である介護ヒューマノイドの関節可動域や動作モデルといった固有名詞の変換ミスも目に見えて減った。
出力量が3倍になった日
横浜から京都へ向かうのぞみ号の車内で、20分ずつ3本の音声メモを録ったことがある。介護現場で見た課題と、動作モデルへの仮説をひたすら喋り続けた。
降車後にChatGPT o1にその3本を投入すると、学会発表用の構成案が45分で返ってきた。以前はキーボード入力で1回の乗車あたり2000字程度しか書けなかったが、この方法では6000字相当まで伸びた。約3倍だ。
Otter.aiより実質安い
文字起こし専用のOtter.aiは無料枠が月600分。週2回以上新幹線に乗る働き方だと、1回2時間20分の音声だけで軽く枠を超える。
Whisperのローカルモデルを使う手もあるが、要約や構造化は自分でやる必要がある。ChatGPT Plus(月20ドル)なら音声入力から要約・アウトライン化まで一気通貫でできるため、移動が多い研究者には実質こちらのほうがコストが低い。
落とし穴も書いておく
トンネル区間ではWi-Fiが切れやすく、クラウド型の音声認識は途切れることがある。オフライン対応のWhisperを併用すると途切れはほぼゼロになるが、環境構築の手間はかかる。
また声を出し続けるので、隣席との距離が近い自由席では気を遣う。指定席、それも窓側を選ぶくらいの工夫は必要だ。
使える人・使えない人
出張や学会移動が月に数回以上あり、頭の中に構想はあるのに手が止まるタイプの人には向いている。逆に、車内で資料を見ながら細かい数値を打ち込む作業が中心の人には向かない。音声入力は「喋って発散する」作業に強く、「見て精査する」作業には弱いというだけの話だ。
横浜と京都を往復する生活はまだ日が浅いが、移動時間に対する罪悪感はほぼ消えた。次にのぞみ号に乗るときは、資料を開く代わりにまず20分喋ってみてほしい。あなたなら、あの2時間20分をどう使いますか。
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