SNSで「AIが人間の仕事を根こそぎ奪う」みたいな投稿を見かけるたびに、なんか拍子抜けした気分になるんやわ。不安を煽るだけ煽って、「さあどうする?」のまま消えていくやつ。あれを眺めながら、ほんまにそうか? と首をかしげてしもた。

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ラジオが言うてた「近未来」の話

先日、天神橋筋のほど近くにある馴染みの喫茶店で、ひとりコーヒーを飲んでいた。

カウンターの奥に古びたラジオが置いてあって、「AIが産業全体を席巻する時代が来る」みたいなニュースが流れてきた。

声は澄んでいて、やたら整然としている。けど、なんか…空っぽやねん。言葉は並んでるけど、温度がない。

そのラジオのすぐそばで、マスターと常連のおっちゃんが「昨日の阪神はあかんかったなあ」ってやり取りをしてる。コーヒーが立てる細い湯気、誰かの笑い声、食器が触れ合う音。

私はラジオのほうをちらっと見て、思わず鼻で笑ってしもた。

あの「近未来」の声には、この喫茶店の匂いが一切入っていなかった。

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茶碗の欠けに宿る物語

カウンターに出てきたコーヒーカップ、少し欠けてたんや。

「これ、いつから使うてるんですか」と聞いたら、マスターが「15年くらいかな」と言う。「もう捨てたらええのに」と言うたら、「欠けた日のこと覚えてるから、捨てられへんねん」と笑った。

正解だけを返すもんには、それが絶対にできへん。

「最適な答え」を出すことと、「その欠けに宿った記憶を持つこと」は、全然別の話や。傷があるから語れることがある。失敗したから残る話がある。データにそれはない。

私らが持っているのは、時間が積み重なった「物語」や。欠けた茶碗が15年使われ続けるのは、そこに感情が宿っているからやろ。

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余談やけど、うちの孫が最近「勉強どうやったらうまくいく?」と聞いてくるようになった。昔の私やったら長々と講釈をたれたんやろけど、なんか最近は「失敗してみ」としか言えへんくなった。年を取って丸くなったのか、それとも単純に面倒くさいのか、自分でもわからへん。

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腹を抱えた、あの失敗

記者をやってたころ、取材の日付を一日間違えて、全然違うイベントに乗り込んだことがある。

受付の人が「え、明日じゃないですか」と言うた瞬間の顔、今でも忘れへん。あの「この人、大丈夫か」という目。恥ずかしくて、しばらく誰にも言えんかった。

でも今は、人に話すとき笑いながら言える。恥ずかしい話ほど、後で酒のつまみになると知ったから。

効率だけを追いかけて、ミスを怖れて縮こまって動く人間には、ああいう「盛大な空振り」ができへん。回り道が多い人生ほど、語れることが多い。そう思うようになったのは、60になってからやけどな。

泥だらけで転んだ記憶は、誰にも奪われへん財産や。

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明日の朝、扉を開けること

帰り際、ラジオはまだ「近未来」の話をしていた。

私はコーヒー代を払って、「また来ますわ」とマスターに言って、扉を押した。外の空気が、店内の熱気とぶつかって、ふわっと入れ替わる。あの瞬間が好きやねん。

「AIに勝とう」とか、そんな大層なことは思わへん。

明日も誰かと笑って、何かに驚いて、ちょっとくらい間違えながら生きていこう。 それだけのことを、ラジオを背に受けながら確かめた。

欠けた茶碗が今日も使われているように、私の書いたもんが誰かの手元に少しでも残ったらそれでええ、と思いながら、天神橋の空を見上げた。

今日は雲が少なかった。それだけで、気持ちのええ一日やった。

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