買ったときのまま、きれいなまま、ある。
本棚の飾りになっていた、あのノートのこと
確か3ヶ月くらい前のことだ。文房具店でたまたま目に入って、表紙を触ったら質感がよくて、迷わず手に取った。2,000円ちょっとしたけど、「これなら書ける気がする」と思った✨
あの小さな高揚感、今でも覚えてる。
家に帰って本棚に並べた。「明日から書こう」と思った。でも翌日、開けなかった。
最初の1ページを汚すのが、なんとなく怖かった。きれいな白いページを前にすると、急に「ちゃんと書かなきゃ」という気持ちになって、手が止まる。「今日は気分じゃないから明日にしよう」。そうやって、明日が100回くらい来た。
開くたびに、罪悪感だけが少しずつ積み上がっていった。「買ったのに書いてない」「もったいない」「またできなかった」。
ノートは本棚に、きれいなまま。私の感情はどこにも行けないまま。
なんか滑稽だな、と思う。飾り物みたいに並んでいるノートを見るたびに、なぜか余計に気が重くなる。開けてないのに、開けないからこそ、もう開けない気がしてくる🥺
なぜ私は、書くことがこんなに怖かったのか
ちゃんと考えてみると、「きれいに書けないから怖い」だけじゃなかった。
昔、中学生のときに日記をつけていた。三年分くらい。ある日読み返したら、あまりにも幼稚で恥ずかしくて、ノートごと捨てた。「こんなこと考えてたのか」という羞恥心と、「どうせまた黒歴史になる」という確信が、それからずっと抜けない。
書いたら、自分の本音が見えてしまう。見えたら、目を逸らせなくなる。
今の生活で、言葉にできていないことがたくさんある。夫への。子供への。自分自身への。じわじわと胸の底に澱のように溜まっているものがある💔 それをノートに書いたら、「あ、私ってこんなにいろんなものを抱えていたんだ」って認めることになる。
それが怖かったのかもしれない。
「きれいに書けないから」は、言い訳だった。本当は、「正直に書くのが怖い」だった。字の汚さじゃなく、感情の汚さを誰かに——たとえ自分にでも——見せたくなかった。
余談だけど、先週スーパーの帰り道に可愛い付箋をついつい買ってしまった。ノートも書けてないのに付箋だけ増えていく。なんなんだろう、私って。
夜中の2時に、とうとうノートを開いた
眠れない夜だった。隣で夫がいつもと同じように寝ている。部屋の空気がひんやりして、胸の奥がざわざわしている。
ふいに、本棚のノートのことを思った。
暗闇の中で起き上がって、台所に移動して、小さな電球をひとつつけた。ノートを手に取ったら、思ったより重かった。ずっと飾り物にしていたのに、今夜は開けそうな気がした。なんでかは、わからない。
ペンを持って、白いページを前にして。
最初の一行を書くとき、手がかすかに震えた。「何を書けばいいんだろう」という迷いと、「もうどうでもいい」という諦めが混ざったような感覚で、とにかく書いた。
字は汚かった。でも書き始めたら、汚さが気にならなくなった。
頭で考えるより先に、言葉が出てきた。夫に言えなかったこと。ずっと我慢してきたこと。自分でも気づいていなかった、ちいさな怒り。書いても書いても、次の言葉が湧いてくる。止まらない。
途中で、のどの奥が熱くなった。
ぐちゃぐちゃの字で、ぐちゃぐちゃのまま書き続けた。誰かに見せるためじゃない。うまくまとめなくていい。ただ書いた。手が止まったのは、窓の外が少し白み始めた頃だった。
翌朝、書いたものを読み返して気づいたこと
朝、子供たちを起こす前に、台所に置きっぱなしにしていたノートを開いた。
最初に思ったのは「字、汚っ」だった。本当に汚かった。行が斜めになっていたり、途中で詰まっていたり。でもその乱れた字の中に、自分でも知らなかった言葉があった。
「私は誰かに必要とされたい。でも必要とされることと、愛されることは、違う気がする」
こんなこと、考えていたんだ。自分でも驚いた。
誰かに読まれるために書いていないから、ちゃんと書く必要がない。ちゃんと書く必要がないから、本音が出る。 そういうことか、とぼんやり思った。頭を整理するとか、そういう話じゃなかった。ただ、自分を外に出す場所が必要だったんだ。
どこかで読んだ話で、「きれいに書こうとすると、かえって本音が出なくなる」というのがあった。最初は「そんなわけない」と思ってた。でも今は、じんわりとわかる。
あのノートを、本棚には戻さなかった。
今は台所のテーブルの端に置いている。手の届く場所に。毎日書いているわけじゃない。気が向いたときだけ。それでいいと思ってる。
今夜また眠れなかったら、台所に行ってノートを開こうと思う。まだ言葉にできていないものが、きっとまだたくさんある。
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