午前四時の火薬庫、あるいは無垢なる牙
夜が明けるかどうかの薄暗い部屋で、私はいつもデスクに向かう。静寂を破るのは、キーボードを叩く音と、時折デスクの裏から聞こえる カジカジという、小さな、しかし不穏な音。振り返れば、私の愛しい猫が、無垢な瞳で剥き出しの電源コードに牙を立てていた。
このままじゃ、いつか本当に火花を散らすかもしれない。感電とか、火災とか、想像するだけでゾッとする。夜の街で生きる私にとって、こういう「剥き出しの配線」は、SNSのタイムラインで見る、無自覚なクソリプやヤリモクの甘い言葉と重なることがある。無邪気に見えて、いつか心を感電させてしまうような危うさ。
愛するがゆえに、この危険を放置できない。でも、どうすればいいのか。どこか遠くで、100円ショップのワイヤーネットやスパイラルチューブが、私の頭の片隅をよぎっていた。
百円の盾と、届かない爪痕
市販のケーブルボックスなんて、私のデスク裏に溢れるカオスを隠しきれるわけがない。絡み合ったコードたちは、まるで夜の世界の人間関係みたいに複雑で、一筋縄ではいかない。既製品の「綺麗事」だけでは、本当の危険からは自分を守れないのだ。
私は近所の100均に駆け込み、ワイヤーネットと結束バンド、それからスパイラルチューブを買い込んだ。泥臭い作業が始まった。ペンチでワイヤーネットを曲げ、コードをチューブでぐるぐる巻きにし、そして、ひたすら 結束バンドを締め上げる。指が痛くなるほど、強く。
これで本当に防げるのか? 愛猫がまた隙間を見つけて牙を立てるかもしれない。そんな疑念が、作業中ずっと私の心をよぎっていた。まるで、SNSで少しでも嫌な予感がした時に、即ブロックやミュートをする行為に似ている。完璧じゃなくてもいい。物理的に口が届かない、爪痕も残せないほどの「境界線」を、自分の手で作り出す。罪悪感なんていらない。自分を守るためなのだから。
ノイズの消えた聖域で、私たちが生き残るために
対策が完了したデスク裏は、嘘みたいに静かになった。剥き出しだった線が見えなくなり、視界がすっきりとした。愛猫はもう配線に興味を示さない。諦めたように、私の膝元で毛玉のように丸まって眠る。その姿を見て、深い安堵が訪れた。
物理的に隔てることで、かえって愛おしさが増すのかもしれない。これは、SNSと少し距離を置くことで、本当に大切なものが何か見えてくる感覚に似ている。余計なノイズが消えたおかげか、在宅での作業にも集中できるようになった。
自分の聖域(テリトリー)を守るということ。それは、夜の街で生き残るための、最も冷徹で、そして最も深い愛の形なのかもしれない。承認欲求の海で溺れそうになっても、自分を大切にできない夜があってもいい。でも、心だけは守ろうね。そのための「百円の盾」は、いつでも作れるはずだから。この静かな安堵感が、私に微かな覚悟をくれた。
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