朝のキッチン、消えない疲労感
朝食の支度をしながら、今日の段取りを頭の中で組み立てます。母の薬、デイサービスの準備、パートへの出勤時間。あれもこれもと考えると、朝からため息がこぼれてしまいます。夫は新聞を読みながら「疲れてるのか?」と声をかけてきますが、正直なところ、この疲労の深さは夫には到底理解できないでしょう。
49歳という年齢は、体力的な衰えを否応なく突きつけてきます。ちょっとした階段の上り下りでも息が切れ、母を支える腕にも力が入らなくなってきました。このままでは、いつか自分が倒れてしまうのではないか、そんな漠然とした不安が常に付きまとっています。
夫の知らない、午後二時の逃避行
そんな私の唯一の「逃避行」が、週に2回通う近所のフィットネスジムです。夫には「買い物ついでに友達とランチ」とでも言って家を出ます。ジムのロッカーで着替え、ウェアに着替える瞬間、まるで別の自分になるような、背徳にも似た高揚感に包まれます。
スマホの画面が急に映らなくなるような、日常を遮断する感覚。ジムの中では、介護のこともパートのことも一切考えません。ひたすらウォーキングマシンで汗を流し、軽い筋トレに集中します。誰にも邪魔されない、この1時間が私にとっての 秘密の隠れ家 なのです。月会費は8,000円ほどかかりますが、これは私にとって必要経費。この時間がなければ、きっと私は壊れてしまうでしょう。
まだ女でいたい、という静かな狂気
ジムで体を動かすのは、もちろん介護や仕事の体力を維持するため、という大義名分があります。しかし、それだけではありません。鏡に映る自分の体を見て、正直「まだ女でいたい」と思うのです。たるんだ二の腕、ぽっこりしたお腹。老いていく自分への抗いが、私をジムへと向かわせる静かな狂気なのかもしれません。
誰かに見せたいわけでも、褒められたいわけでもありません。ただ、自分自身が「まだやれる」と感じたい。シャワーを浴びて、少しだけ引き締まった体を見るたびに、胸の奥で何かが燃え上がるような感覚があります。この執着が、疲弊した私をなんとか繋ぎ止めているのです。
夕暮れの街、仮面をつけ直す私
ジムを出て、夕暮れの街をスーパーの袋を下げて家路につきます。ジムに行く前とは違う、少しだけ清々しい気持ちと、再び主婦の顔に戻る虚しさが入り混じった複雑な感情。家に着けば、また介護と家事の現実が待っています。
それでも、あのジムでの1時間は、私にとってかけがえのないものです。明日もまた、この「秘密の防衛策」があるからこそ、私はなんとか生きていける。そう強く思います。この小さな秘密が、私の人生の後半戦を支えるエネルギーになっているのです。次はもう少し、筋トレのメニューを増やしてみようかと密かに計画しています。
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