
50手前になって、親の介護で実家と自宅を往復する日々が続いていると、自分のための時間なんてほとんどありません。母の物忘れが進むたびに、私の記憶力も衰えていくんじゃないかと不安になる。夫との会話も、気づけば仕事や子供のことで、他愛ない話をする余裕もなくなってしまいました。そんな中で、唯一の息抜きが家族でのキャンプなんです。
初めて家族でキャンプに行った時、娘が「ママのご飯、お店の味だよ!」って言ってくれたんです。夫も「お袋の味を超えたな」なんて冗談を言ってくれて、その時の嬉しさは今でも忘れられません。焚き火の煙と、夜空の星の下で食べる料理の味は、まさに非日常の魔法。でも、不思議なもので、翌日になると「あの時の味って、どうだったっけ?」とぼんやりしてしまうんです。特に調味料の分量なんかは、もう全然思い出せない。
これまではスマホでレシピを管理しようとしていました。でも、キャンプ場でスマホの画面は反射して見づらいし、油でベタベタの手で触るのもストレスで。せっかくメモしても、翌日には記憶から薄れてしまう。このままでは、あの特別な「お店の味」が、私たちの記憶からも消えてしまうんじゃないか。そんな切ない焦燥感が募るばかりでした。
『記録』は『記憶』への執着か、それとも未来への贈り物か
そんな時にSNSで見かけたのが、あの手書きのキャンプ飯ノートだったんです。「これだ!」って、雷に打たれたような気がしました。スマホでレシピを管理する不便さを感じていた私にとって、紙のノートはまさに救世主。油ハネや汚れだって、デジタルと違って「味」になるんですよね。むしろ、その時の臨場感を物語る証拠になる。
すぐに無印良品へ行って、『ポリプロピレンカバー見開きで見えるスリムポケットホルダー』とA5サイズの用紙を何枚か買ってきました。これなら見開きでパッと見られるし、汚れたら用紙だけ交換できる。そして、調理中の写真をその場で印刷して貼れるように、instax mini Link 2も思い切って購入しました。調理中の様子を写真に撮って、余白にペタッと貼る。その写真を見ながら、その時の気温や火加減、感じたことなんかを書き込んでいくんです。
調味料の記録も工夫しました。大さじ小さじで測るのもいいけれど、キャンプの場では何かと手がかかる。だから、セリアで売っている100円ショップの調味料ボトルに詰め替えて、何プッシュしたかで記録するようにしたんです。これが本当に便利で、再現性がぐんと上がりました。プロのレシピをそのまま写すよりも、その場の環境や自分の感覚をメモしておく方が、断然「我が家の味」になるんだなって、人生経験と重ねて改めて思いましたね。
この味を誰に伝えたい? ノートに綴る、私の『生きた証』
ノートに書き込んでいくと、不思議なことに、その時の思い出が鮮明に蘇ってくるんです。娘が初めて火起こしを手伝ってくれた時のこと。夫と二人で焚き火を囲んで、他愛もない話をした夜のこと。介護で疲れた心に、あの時の温かい味がじんわりと染み渡るようでした。
「この味を誰に食べさせたいか」と問われたら、やっぱり、一番は子どもたちですね。いつか彼女たちが親になった時、このノートを見て、私たちのキャンプの思い出を語り合ってくれたら、これ以上の幸せはありません。もちろん、夫にも。そして、何より、疲れた自分自身にも、この味で元気を出してほしい。
ノートが完成したら、防水性の高いジップロックに入れて保管するつもりです。湿気でボロボロになってしまう心配も減りますし、大切な記憶をしっかり守れる。おかげで、味の再現率も驚くほど上がりました。失われゆくものへの抵抗、とでも言うのでしょうか。このノート作りが、日々の生活に新たな「張り」と「目的」を与えてくれています。
余談ですが、先日、母の介護のために実家で古いアルバムを整理していたら、私が小さい頃に父が作ってくれた誕生日ケーキの写真が出てきて。そのケーキ、すごく不格好なんだけど、私にとっては最高の味だったんです。写真から当時の匂いや味が蘇ってくるようで、思わず涙が出そうになりました。こんな風に、残しておきたい「味」って、レシピだけじゃないんだなって。
人生は、何度だって『最高の味』に出会える
このキャンプ飯ノートは、単なるレシピ集ではありません。私自身の「人生の記録」であり、心の拠り所になっています。子育てが終わり、親の介護が始まり、人生の後半戦に差し掛かっている今、自分の存在意義を問い直すようなことも増えました。でも、このノート作りを通して、私はまだ新しいものを作り出し、大切なものを残していけるんだと、そう思えるようになりました。
次のキャンプが今からもう待ち遠しいです。どんな新しい味に出会えるのか、そして、どんな思い出をこのノートに書き込めるのか。考えるだけで、心が躍ります。
あなたにとっての「残したい味」は何ですか? それは、誰かのために残したい味でしょうか。それとも、自分自身の心に残しておきたい味でしょうか。50代からの人生は、きっとまだまだ「最高の味」に満ちているはずです。自分だけの「味の記録」を見つけることができたら、日々の生活ももっと豊かになるかもしれませんね。
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