OBSERVATION
2026-07-30

丹沢の急登で心拍数が170を超えた日:マニュアルの数値より自分の息遣いを信じた理由

大倉尾根の登山口からわずか45分、GARMINが告げた「172bpm」という数字の衝撃

丹沢・大倉尾根の登山口から歩き始めて、まだ45分ほどしか経っていない時のことです。愛用しているGARMIN Instinct 2 Dual Powerの画面に目を落とした瞬間、思わず足が止まりました。心拍数が「172bpm」という数字を示していたのです。

私が普段のトレーニングから計算しているカルボーネン法の上限値は145bpmあたりです。それを大幅に超える数値が目の前で点滅しています。冬場の冷え込んだ空気の中で光学式心拍計がうまく機能していないのではないかと疑いましたが、心臓の鼓動は激しく、息も確実に上がっていました。

「このままでは心臓発作が起きるのではないか」という恐怖心が頭をよぎります。自分の体が発するサインなのか、それとも機械の誤差なのか。まだ先が長い大倉尾根の急登を前にして、早くも強い焦りに囚われてしまいました。

マニュアルの限界:なぜ年齢から算出した心拍数の上限値は山でアテにならないのか

振り返ってみると、私たちは普段から年齢ベースの画一的な計算式に縛られすぎています。マニュアルに書かれた上限値を超えただけで、自分の体が限界を迎えていると錯覚してしまうのです。

特に冬場の低温環境下では、手首の血流低下によって光学式心拍計が不安定になることも珍しくありません。一般的に心拍数が170を超えると長くは持たないと言われますが、それは平地での話であり、起伏の激しい山岳地形では個人の負荷の入り方が全く異なります。

画面の数字に怯えて足を止めるよりも、自分の体から発せられるリアルな声を聞くべきだと気づきました。バロメーターとして頼るべきなのは機械の警告音ではなく、「今、会話ができるかどうか」の呼吸音そのものです。

「2歩で吐き、2歩で吸う」:呼吸のリズムを変えた途端に足の負荷が30%軽くなった日

心拍数の数字を見るのをピタリとやめ、意識を自分の呼吸だけに集中させることにしました。試したのは、「2歩で吐き、2歩で吸う」というシンプルな4拍子のリズムです。

最大換気量に合わせたピッチ走法を意識しながら足を運ぶと、不思議なことにあれほど重かった足の筋肉にかかる負荷がスッと軽くなりました。体感で30%ほど負担が減ったような感覚があり、息苦しさも和らいでいきました。

自分のペースを崩さずに淡々と登り続けた結果、ヤマレコの標準コースタイムである約3時間30分を大きく上回り、休憩時間を1回あたり5分以内に抑えながら2時間55分で塔ノ岳の山頂へとたどり着くことができました。

数字の呪縛を捨て、自分の体と対話しながら登り続けるために

周囲の登山者がSNSに投稿しているタイムアタックや、若い人たちの軽快な足音を聞いていると、どうしても自分の体力が劣っているのではないかと焦ってしまいます。しかし、他人の数字と比べることに何の意味もありません。

大切なのは、機械の警告音や画一的なマニュアルに振り回されることではなく、その日の自分の息の切れ方や疲労度と正直に対話することです。年齢とともに変化していく自分の体力を丁寧に受け止めながら、一歩一歩を自分の足で確かめるように登っていく。

そうやって余計な呪縛を一つずつ手放していくことで、山は単なる苦しいトレーニングの場ではなく、自分自身と静かに対話できる大切な空間に戻ってくれます。まずは次に山へ行くとき、手元の時計ばかりを見るのをやめて、自分の呼吸に耳を澄ませることから始めてみようと思います。

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