OBSERVATION
2026-07-04

あの薄暗い空間をAIに教えたい。週末の対話から紡ぐ3つのプロンプト計画
週末、友人と久しぶりに会って、新宿ゴールデン街の思い出話に花を咲かせました。特に話題になったのが、昔よく通った『Bar Nostalgia』のことです。あの薄暗くて、どこか懐かしいような空間が持つ 「居心地の良さ」 について、二人で語り合ったんです。壁の古いポスターや、カウンターに並んだボトルが、まるで時間の流れを止めたみたいで。

窓から見える、東京の変わりゆく空の色とは対照的に、あの場所だけはいつも変わらない。そんな情景を思い浮かべながら、ふと、この感覚をAIにどう伝えればいいだろう、と思いました。『標高差の恋』の連載を進める中で、物語の舞台となる空間描写はとても大切にしている部分です。読者の方に、その場の空気感まで感じてほしい。でも、AIに「エモい空間」とか「雰囲気のある場所」と指示しても、なかなか思った通りのアウトプットは得られません。

# 夜の帳と、AIに宿る記憶の断片

あの日の帰り道、ベランダの植物に水をやりながら、友人と話したことが頭から離れませんでした。AIに、人間が感じるような「薄暗い空間の心地よさ」をどうやって言語化させればいいのか。きっと私と同じように、頭の中にある漠然としたイメージを、どう具体的にAIに伝えればいいか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

私も以前は、AIが生成する画像が、どこか無機質に感じられてしまうことにフラストレーションを感じていました。けれど、プロンプトを「現代の詩」として捉えるようになってからは、その試行錯誤自体が、創作の深い喜びになっています。

# 感覚の錬金術:『五感』で刻む空間のリアリティ

AIに感覚を伝えるには、抽象的な言葉ではなく、具体的な「五感情報」をプロンプトに盛り込むことが大切だと感じています。例えば、『Bar Nostalgia』の情景を思い浮かべながら、こんなプロンプトを試しました。

湿度60%、照度20ルクス、BGMはジャズのECMレーベル、カビ臭くないが僅かに湿った空気、グラスが触れ合う微かな音

こういった具体的な数値や音響情報が、AIの出力に大きな影響を与えることが分かってきました。

| 指示のタイプ | 例 | AIの解釈 |
| :---------- | :---------------------------------- | :---------------------------------- |
| 抽象的 | ムーディーなバーの雰囲気 | 一般的なバーのイメージ、画一的になりがち |
| 具体的な五感 | 照度20ルクス、湿度60%、BGMはジャズ | 特定の物理量や音響を再現しようとする |

実際に『Midjourney』で、特定の色温度(例えば2200K)と照度(20ルクス)を組み合わせたプロンプトを試してみたところ、生成される「薄暗い空間」のリアリティが、以前よりも格段に向上する可能性が示唆されました。また、『Claude 3 Opus』に、バーの環境音(グラスのぶつかる音、低い話し声など)をテキスト化して加えると、生成される空間描写の没入感が深まる傾向にあることも感じています。

# 記憶の残響、感情の呼び水:AIに『心』を宿らせる調律

さらに、空間に深みと情緒をもたらすためには、「物語」や「感情」の要素をプロンプトに織り交ぜることも有効です。例えば、『Bar Nostalgia』の常連客である山田氏が、20年来この店に通い続けている逸話を盛り込むとどうなるでしょうか。

20年間、毎週金曜日の夜をこのカウンターで過ごしてきた男の記憶が染み込んだバーの空間。彼は今日も変わらず、琥珀色のウイスキーを傾けている。

このような物語プロンプトを加えることで、AIが生成する空間描写に、より深いリアリティと人間的な温かみが加わる可能性を感じています。私の『標高差の恋』でも、登場人物たちの過去や心情が、彼らが過ごす空間にどう影響しているか、という視点でプロンプトを練っています。

AIは人間のように感情を「感じる」わけではありませんが、特定のプロンプト構造を用いることで、ユーザーに特定の感情を「想起させる」ようなテキストや画像を生成する能力を持つことは、非常に興味深いです。例えば、「初めて訪れた客が感じるであろう『秘密基地を見つけたような高揚感』を表現せよ」といった感情誘発プロンプトは、単なる描写を超えた情緒的な共鳴を生む可能性を秘めていると感じています。

# 薄闇の彼方へ:AIが紡ぐ、未だ見ぬ感情のパレット

「五感プロンプト」「物語プロンプト」「感情誘発プロンプト」。この3つのアプローチを組み合わせることで、AIが単なるツールではなく、人間の感性を拡張する 「共創のパートナー」 になり得ることを強く感じています。

『標高差の恋』の挿絵を生成する際も、これらのプロンプト計画を意識することで、より物語の世界観に寄り添った、情緒豊かなビジュアルが生まれると信じています。

皆さんの頭の中にある「理想の空間イメージ」は、どんな五感情報や物語、感情が詰まっていますか? AIと共に、まだ見ぬ感情のパレットを広げていくこと。それはきっと、新たなアートの可能性を切り拓く、エキサイティングな旅になるのではないでしょうか。

余談ですが、最近、新しい種類の画材を試してみたくて、あれこれ調べているんです。デジタル創作とはまた違う、物質としての表現にも惹かれるんですよね。

次回は、そういったアナログとデジタルの融合についても、少し考えてみたいと思っています。