「改悪だ」「もう使わない」。巨大プラットフォームが不人気な仕様変更を行うたびに、SNSでは怒りの声がこだまする。しかし結局のところ、ほとんどのユーザーはそこから離脱できず、文句を言いながら使い続ける。なぜ私たちは、明らかに質が低下した(メタクソ化した)プラットフォームに縛り付けられてしまうのだろうか。
一
プラットフォームが「メタクソ化(Enshittification)」の第2段階(ユーザー体験を犠牲にして利益を搾り取る段階)へ移行できるのは、ユーザーが簡単には逃げ出せないという確信があるからだ。この逃げ出せなさを、経済学では「スイッチングコスト(乗り換えコスト)」と呼ぶ。
現代のプラットフォームは、極めて巧妙なスイッチングコストを設計している。
- 人間関係のロックイン: LINEやX(旧Twitter)から離脱するということは、単にアプリを消すことではなく、「そこで繋がっている友人やコミュニティとの断絶」を意味する。
- データのロックイン: 何年にもわたって蓄積した写真、プレイリスト、購入履歴、そして最適化されたレコメンド。これらを他社サービスに持ち出す(エクスポートする)機能は、意図的に制限されているか、極めて使いづらく設計されている。
- 信用のロックイン: Amazonのレビュー履歴やUberの評価など、そのプラットフォーム内で築き上げた「デジタルな信用」は他へ持ち運べない。
二
ユーザーが十分に「ロックイン」されたと判断したプラットフォームは、容赦なくその価値の抽出を始める。
ケース1:Amazonの「検索結果」
かつてのAmazonは、「最も関連性の高い商品」を素早く提示する魔法のカタログだった。しかし現在の検索結果のトップ画面は、実質的に「最も高い広告費を払った商品」のカタログへと変貌している。ユーザーは本来探していた優良な商品にたどり着くために、大量の「スポンサープロダクト」をスクロールして避ける労働を強いられている。ユーザー体験を犠牲にして、広告主から利益を抽出している典型例だ。
ケース2:SNSの「アルゴリズムタイムライン」
「フォローした人の投稿を時系列で見たい」というユーザーの純粋な欲求は、今やどのSNSでも阻害されている。プラットフォームは、滞在時間を最大化し、間に広告を挟み込むために、感情を逆撫でする「おすすめ」コンテンツを強制的に表示する。サードパーティ製アプリ(ユーザーが見やすいようにタイムラインをカスタマイズできるアプリ)をAPIの遮断によって排除したのは、ユーザーから「プラットフォームの設計に抗う力」を奪うためだ。
三
メタクソ化の恐ろしい点は、この搾取がユーザーだけでなく、ビジネス顧客(売り手やクリエイター)にも向かうことだ。ユーザーがプラットフォームから離れられない以上、ビジネス顧客もまた、そのプラットフォームに出店・投稿し続けるしかない。
Amazonの出品者は、プラットフォーム内での生存競争に勝つために、高額な広告費(スポンサープロダクトへの課金)を支払い、FBA(Amazonの物流網)を強制的に利用させられる。売上の半分近くが様々な「手数料」としてプラットフォームに吸い上げられても、他にこれほどの集客力を持つ場所がないため、逃げ出すことはできない。
誰もが文句を言いながら、それでも留まり続ける。これが完成された「メタクソ化」の牢獄である。では、この牢獄の壁を壊す方法はないのだろうか?
最終回となる第3回では、コーリー・ドクトロウが提示する唯一の対抗策、「相互運用性(Interoperability)」について解説する。
Fact Check & Context
- スイッチングコスト(Switching barriers/costs): 消費者が現在利用している製品やサービスから、別のものへと乗り換える際に発生する金銭的、心理的、時間的コスト。
- Amazonの手数料比率: 2023年の報告等によれば、米国のAmazon出品者は売上の50%以上を広告費や物流手数料(FBA)としてAmazonに支払っているケースが常態化している。(出典: Marketplace Pulse等)
- API制限によるサードパーティ排除: 2023年、RedditやX(旧Twitter)がAPIの無料枠を大幅に制限または有料化し、多くのサードパーティ製クライアントアプリがサービス終了に追い込まれた。